ワークができてもテストで白紙になる理由
ワークの類題は、ちゃんと解ける。
解説を読めば、「ああ、そういうことか」と分かる。
ところが、テストで初めて見る問題が出ると、鉛筆が止まる。
「あんなにやったのに、なんで?」
保護者の方も、こう思いますよね。
- 努力が足りないのか?
- 地頭の問題なのか?
- 問題集をもっと増やすべきか?
多くの場合、どれも原因ではありません。
こんにちは。
雙葉進学教室の「ビッグロック博士」です。
数学の指導に40年携わり、教育学修士(数学教育)として、
子どもたちの考え方を研究してきました。
大阪・沖縄・愛知の塾や、東京の大手塾の海外校(ロンドン、ニューヨーク、上海)でも、
日本人児童の受験指導に関わりました。
今日は、
「類題は解けるのに初見が解けない」
現象の中身と、具体的な直し方をお話しします。
類題が解ける理由は問題の表面の目印にあり
- 類題が解ける子は、解き方を問題の表面の特徴(単元名、数字の形、章の位置)と結びつけて覚えている
- 初見問題では、その目印が外れるので、手が止まる
- 初見で解ける子は、表面ではなく問題の共通の骨組みを見ている
- 骨組みは、2つの問題を並べて比べることで、見えるようになる
(※「目印が表面にある」という見方は、私の指導経験にもとづく仮説です。
日本の中学生で検証されたデータを確認できたわけではありません)
なお、パターンを覚えること自体は悪くありません。
手順に習熟することは、数学の土台です。
問題は、
そこで止まってしまうこと
です。
日本の研究者、波多野誼余夫氏と稲垣佳世子氏は、熟達を2つに分けて論じました(1986年)。
- 定型的熟達:手順を身につけ、効率よく正確にこなせる
- 適応的熟達:既知の課題に加えて、新しい課題に対して新しい解き方を生み出せる
そして、適応的熟達には概念的理解が必要だとされています。
類題が解けるのは定型的熟達、
初見が解けるのは適応的熟達、
と考えると整理しやすくなります。
診断:目印を外すと解けない理由を探る
お子さんが「目印頼み」になっていないか、
次の方法で確かめられます。
同じ解き方で解ける問題を、見た目だけ変えて出してみる。
- 場面を変える(年齢の話を、テープの話に変える)
- 数字の形を変える(整数を、小数や分数に変える)
- 単元の位置を変える(章末の問題を、混ぜて出す)
類題は解けたのに、見た目を変えると手が止まるなら、
解き方が表面の目印と結びついています。
では、どうすれば「骨組み」が見えるようになるのか。
ここからが本題です。
1つの例では骨組みが見えにくい理由
認知心理学者のギック(Gick)とホリオーク(Holyoak)は、
1983年に興味深い実験を報告しています。
被験者に、問題とその解決法が書かれた物語を読ませてから、
似ているが表面的には違う課題に取り組ませました。
結果はこうです。
- 物語が1つのとき:要約をさせる、原理を言葉にさせる、図で表させる、いずれも大きな効果は得られなかった
- 物語が2つのとき:2つの類似点を説明する過程で、共通の骨組み(スキーマ)が自然に導かれた。そして、その質の高さが、その後の転移成績を強く予測した
つまり、
1つの例をいくら丁寧に学んでも、
そこから骨組みは出てきにくい。
2つを比べると、出てくる
のです。
数学の授業での研究もあります。
2007年、リトル=ジョンソン(Rittle-Johnson)とスター(Star)は、
アメリカの中学1年生相当の生徒70名に、方程式の解き方を学ばせました。
- 比較群:同じ方程式の2つの解法(普通の解き方と、手順を減らす近道の解き方)を、並べて見せる
- 逐次群:同じ解法を、1つずつ順番に見せる
結果は、比較群のほうが手続き的知識が伸び、
類似問題でも転移問題でも成績が良く、
近道を使う柔軟性も高くなりました。
一方で、
概念的知識には、2群の間に差が出ませんでした。
この点は正直にお伝えしておきます。
「比べれば、概念が深まる」
と言い切れるわけではありません。た
だ、初見に近い問題への対応力という意味では、
比べる学び方に効果があった、ということです。
具体から抽象へ:紙テープを使った3段階の学習法
ここで、2題を比べながら、骨組みを取り出してみましょう。
教育心理学では、具体から抽象へ段階的に移る方法を
concreteness fading(具体性のフェイディング)
と呼びます。
実物から始めて、図に置き換え、最後に数や式にする方法です。
ファイフ(Fyfe)らの小学2〜3年生の実験では、
実物だけ・数字だけの条件より、この段階を踏んだ条件のほうが、
難しい問題(転移問題)の成績が高かったと報告されています。
ここでは、その考え方を使います。
問題①:紙テープを切る方法
全長50cmの紙テープを2つに切ります。長いほうは、短いほうより8cm長くなりました。短いほうは何cmですか。
段階1:実物を使って理解する
実際に紙テープ(または、紙を細く切ったもの)を使います。
- 50cmのテープを用意する
- 「長いほうは8cm長い」ので、長いほうから8cm分を切り取って横に置く
- 残った2本は、同じ長さになる
- 残りは、50−8=42cm。これを2本で分けるので、1本は21cm
短いほうは21cm。長いほうは29cm。たしかめ算:21+29=50 ✓
「差の分を取り除くと、同じ長さが2本できる」。
ここが大事な発見です。
段階2:線分図で視覚化する
実物を、線分図に置き換えます。
短い ├────────┤
長い ├────────┼──8──┤
└──── 全部で50 ────┘
線の長さで、
「差の8」が飛び出している様子を描きます。
差を引くと、2本が揃うことが、図で確認できます。
段階3:式で表現する
短いほうをxとすると、長いほうはx+8。
x+(x+8)=50 2x=42 x=21
実物でやったことが、式の中にそのまま入っています。
- 差の8を取り除く → 「2x=50−8」の「−8」
- 2本に分ける → 「2x」の「2」
問題②:年齢を使った問題解決
兄と弟の年齢の和が31歳で、兄は弟より5歳年上です。弟は何歳ですか。
見た目は違います。でも、同じ手順が使えます。
x+(x+5)=31 2x=26 x=13
弟は13歳、兄は18歳。たしかめ算:13+18=31 ✓
比べて骨組みを見つけ、名前をつける
問題①と問題②を並べます。
| 問題① | 問題② | |
|---|---|---|
| 場面 | テープの長さ | 兄弟の年齢 |
| 分かっている和 | 50cm | 31歳 |
| 分かっている差 | 8cm | 5歳 |
| 求めるもの | 短いほうの長さ | 弟(小さいほう)の年齢 |
| 式 | x+(x+8)=50 | x+(x+5)=31 |
場面は全く違います。
ところが、
「2つの量の和と差が分かっていて、小さいほうを求める」
という骨組みは同じです。
この骨組みに、名前をつけます。
私は「和と差の型」と呼んでいます。
初見問題への対処法
では、見た目が違う、初見の問題です。
周の長さが30cmの長方形があります。縦は横より3cm長いです。この長方形の面積は何cm²ですか。
「長方形」「面積」という言葉が目に入るので、図形の問題に見えます。目印頼みの子は、ここで固まります。
でも、骨組みを探すと、見えてきます。
- 周の長さ30cmは、縦2本と横2本の合計。半分にすると、縦+横=15cm
- 縦は横より3cm長い
縦+横(和)が15cm、縦−横(差)が3cm。 「和と差の型」です。
x+(x+3)=15 2x=12 x=6
横6cm、縦9cm。面積は6×9=54cm²。たしかめ算:周は(6+9)×2=30 ✓
初見のはずの問題が、
知っている骨組みの1つ
に見えました。
概念化の3ステップで問題解決力を高める
今の流れを、3つにまとめます。
- 比べる:見た目の違う2題を並べて、同じところと違うところを書き出す
- 名前をつける:同じところを、自分の言葉で一言にする(例:和と差の型)
- 別の場面で使う:見た目をさらに変えた問題に当てはめてみる
この3ステップが、
具体(例題)から抽象(本質)へ
の橋渡しです。
大切なのは、2番目の「名前をつける」を、先生や解説に任せないことです。
自分の言葉でつけた名前は、自分の目印になる
からです。
愛知で注目される「式の意味を読み取る」問題の背景
最後に、入試や学力調査の話をします。
令和7年度の全国学力・学習状況調査では、
愛知県の中学校数学の平均正答率は51%で、
全国(48.3%)を上回りました。
愛知の中学生は、よく頑張っています。
一方、同じ調査の問6(2)では、
式の意味を読み取り、
成り立つ事柄を見いだして、
数学的な表現で説明する
ことが問われました。過去の調査にも、似た趣旨の問題があります。
たとえば平成22年度の
「連続する三つの奇数の和」
の説明問題の正答率は26.4%でした。
こうした問題は、
覚えた手順をなぞるだけでは対応しにくいものです。
式の見た目ではなく、
式が何を表しているかを
読み取る力が、問われています。
家庭でできる3つの練習法で初見問題に強くなる
間違えた問題と似た問題を並べて比較する
問題集の中から、見た目は違うが、解き方が同じ問題を探します。
並べて、「どこが同じ?」と聞いてみてください。
答えを教える必要はありません。
共通点に自分で名前をつける
「和と差の型」のように、変な名前で構いません。
ふざけた名前のほうが、案外覚えています。
見た目を変えた問題を自作してみる
場面を変えるだけで構いません。
「テープ」を「お小遣い」に変えるだけでも、
骨組みは同じです。
自分で作れたら、骨組みが見えている証拠です。
「問題を増やす」より、
「2題を深く比べる」。
この順番が、初見問題への近道です。
一緒に「骨組み」を見つける方法
「家でやってみたけれど、何と何を並べればいいのかが分からない」
「うちの子は、どの単元で目印頼みになっているのか知りたい」
「半田高校・横須賀高校を目指しているが、初見の応用問題でいつも手が止まる」
そんなときは、数学の指導経験が豊富な第三者の目が役に立ちます。
雙葉進学教室は、愛知県半田市にある、数学・理科に特化した進学塾です。
40年の指導経験を持つ塾長が、半田高校・横須賀高校を目指す中学生に、解き方だけでなく、
問題の共通の骨組みの見つけ方
から指導しています。
「やったのに解けない」を、
「見たことがなくても解ける」に。
ぜひ一度、雙葉進学教室にご相談ください。