子どもがすぐに答えを見てしまう理由とその対策
ワークを開いて、問題を読む。
鉛筆を持ったまま、30秒ほど固まる。
そして、そっと解答ページをめくる。
「今、ちゃんと考えた?」
「考えたけど、わからなかった」
こんなやりとりを、何度繰り返してきたでしょうか。
保護者の方は、こう心配になります。
- 粘り強さがないのでは?
- 答えを写しているだけでは?
- このまま高校受験は大丈夫だろうか?
一方で、ネットを見ると正反対の話も出てきます。
「悩む時間は1分でいい。わからなければ、すぐ答えを読めばいい」
どちらを信じればいいのか、わからなくなりますよね。
こんにちは。
雙葉進学教室の「ビッグロック博士」です。
数学の指導に40年携わり、教育学修士(数学教育)として、
子どもたちの考え方を研究してきました。
大阪・沖縄・愛知の塾や、東京の大手塾の海外校(ロンドン、ニューヨーク、上海)でも、
日本人児童の受験指導に関わりました。
「答えを見る」こと自体は、悪ではありません。
問題は、
見る前に何もしていないことと、
見た後に何もしないことです。
今日は、その具体的な中身をお話しします。
数学の成長は「見る前・見る間・見た後」の行動で決まる
- 「何分粘ったか」より、何を紙に残したかが大事
- 計算の手順のような問題は、早く見て、再現して覚えてよい
- 初めて出会う考え方の問題は、見る前に自分なりに探す時間が効く
- 「粘る」とは、固まって悩み続けることではなく、手を動かして探し続けること
この4つを押さえると、
「見る/見ない」の二択で悩む必要がなくなります。
子どもが答えを急ぐ心理的背景
まず、なぜ子どもは答えを急ぐのでしょうか。
私の指導経験から考えられる理由
(※研究で証明されたものではなく、私の仮説です)
は、次の3つです。
- 止まっている時間が、苦痛で恥ずかしい。 何も書けない自分を見られているような気持ちになる
- 正解を出すことが、目的になっている。 「間違える=悪いこと」と感じている
- 「考える」とは何をすることか、知らない。 鉛筆が止まったとき、次に何をすればいいのかわからない
3つ目が、特に見落とされがちです。
「粘り強く考えなさい」
と言われても、
考えるとは具体的に何をすることか
を、誰も教えていません。
何をしていいかわからない時間は、
ただの苦痛です。
だから子どもは答えに逃げます。
これは、やる気や性格の問題ではありません。
探し方を知らない
だけです。
研究結果:自力で取り組むことの教育的価値
ここで、研究を見てみましょう。
教育心理学者のカプール(Kapur)とシンハ(Sinha)は、
2021年にReview of Educational Research誌で
メタ分析(多くの研究をまとめて分析する方法)を発表しました。
53件の研究を対象に、
「先に問題に取り組んでから教わる」順序と、
「先に教わってから問題を解く」順序を比べたものです。
結果は、次のとおりです。
- 概念の理解と、別の問題への応用(転移) では、先に取り組むほうが有利だった
- 手続き的な学習(決まった手順を覚えるタイプ)では、有意な差は見られなかった
しかも、効果が大きかったのは、
後で行う説明が、生徒の誤答や不完全な解法を土台にしていた場合
だと報告されています。
つまり、ただ長く悩ませれば伸びる、という話ではありません。
自分なりに試した跡があるから、解説が
「自分の間違いの修正」
として頭に入る。
ここが核心です。
一方で、別の知見もあります。
MITのOpen Learningが整理しているように、
新しい概念を学び始めたばかりの人
は、問題を解くより、
解き方が示された例題を、自分で説明しながら学ぶ
ほうが効果的です。
そして、慣れてくると、
逆に自分で解くほうが得るものが大きくなります。
だから、冒頭の「1分で答えを見る」という主張も、
頭ごなしには否定できません。
解法を知らない段階で悩み続けても、
成果が出にくいのは確かです。
ただし、その主張でも、見た後に
解説を隠して、白紙に自分の手で再現する
ことが条件になっています。
見て終わりではないのです。
(※研究の対象は中等教育生と大学生が中心で、小学校低学年などでは効果が明確ではありませんでした。中学生への当てはめは、私の推論を含みます)
使い分けガイド:答えを見るべき問題と探すべき問題
では、どう使い分けるか。
目安をまとめます。
| 問題の種類 | おすすめの動き |
|---|---|
| 計算の手順(正負の計算、式の展開、連立方程式の解き方など) | 早めに解説を見てよい。見た後に隠して再現する |
| 習ったばかりで、型がまだない単元 | 例題を見て、自分の言葉で説明してから問題へ |
| 初めて見る形の応用問題、「なぜ」を問う証明・説明 | 見る前に、紙に探した跡を残す |
| 何度やっても同じところで止まる問題 | 解説を見て、止まった理由をメモする |
(※これは研究結果を私が実践向けに整理した目安で、決まった基準ではありません。)
大切なのは、
「全部粘れ」でも「全部すぐ見ろ」でもないことです。
「探す時間」を生むための3つの具体的な動作
ここからが、今日いちばんお伝えしたい部分です。
「粘りなさい」
で止まってしまう子には、
手を動かすための具体的な動作
を渡します。
私は次の3つにまとめています。
(※出典のある分類ではなく、私の指導経験から整理した編集上の提案です)
- 条件を書き直す
- 図や表にする
- 小さい数で試す
実際にやってみましょう。
問題:連続する3つの整数の和は、必ず3の倍数になります。その理由を説明しなさい。
多くの子は、ここで固まります。
「理由を説明」と言われても、
何から書けばいいのかわからないからです。
動作①:問題条件を自分の言葉で書き直す
問題文を、自分の言葉に変えます。
- 「3の倍数になる」=「3×(整数)の形で表せる」
- 「連続する3つの整数」=「となり合う整数が3つ」
これだけで、ゴールが見えます。
「3×何か」の形にすればいい
のです。
動作②:問題を図や表で視覚化する
数直線に、3つの数を並べて書いてみます。
●────●────●
n-1 n n+1
真ん中の数を基準にすると、
左は1小さく、右は1大きい。
左右でちょうど打ち消し合いそうだ、
と見えてきます。
動作③:小さな数で具体的に試す
実際の数で試します。
- 1+2+3=6(真ん中の2の3倍)
- 2+3+4=9(真ん中の3の3倍)
- 4+5+6=15(真ん中の5の3倍)
和は、真ん中の数の3倍になっている。
これが予想です。
見えてきた答え:動作を通じて得られる洞察
予想を、文字で確かめます。
真ん中の整数をnとすると、3つの数は n−1、n、n+1 です。
(n−1)+n+(n+1)=3n
nは整数なので、3nは3の倍数です。理由が説明できました。
どうでしょうか。
3つの動作を使うだけで、
「何も書けない時間」が「探している時間」
に変わります。
そして、仮に最後まで解けなくても、
紙には条件の書き直し、図、いくつかの計算が残ります。
この「残った跡」が、
次の見る前の型につながります。
見る前と見た後の効果的な行動パターン
探索の動作を使って、答えを見るときの流れを3つに整理します。
見る前:考えた痕跡を紙に残す
- 条件を書き直した
- 図や表を書いた
- 小さい数で1つは試した
このうち、
どれか1つでも紙に残ったら、
解説を見てOKです。
ルールは、これだけでかまいません。
(※何分考えるかの科学的な基準は、私が確認した範囲では見つかりませんでした。時間ではなく、手が動いたかを基準にします)
見る間:自分の考えと解説を比較する
解説を読むときは、自分が書いた跡と見比べます。
- 自分の考えは、解説のどこと同じか
- どこから違ってしまったか
- 解説は、最初に何をしているか
自分の跡があるから、
解説が「新しい知識」ではなく
「自分の間違いの修正」
として入ってきます。
見た後:解説を隠して自分で再現する
最後に、解説を閉じて、白紙に自分で解き直します。
- 再現できたら、数日後にもう一度解く
- 再現できなければ、止まった場所に印をつけて、解説に戻る
ここまでやって、
初めて自分のものになります。
見て「わかった」で終わると、
わかったつもりになりやすい
のです。
愛知県の挑戦意識に関するデータと背景
私たちの足元、愛知県のデータにも触れておきます。
全国学力・学習状況調査の中学校の質問紙に、
「難しいことでも、失敗を恐れず挑戦している」
という項目があります。愛知県の結果は次のとおりです。
- 令和3年度:愛知県 62.3%/全国 65.9%(差 −3.6)
- 令和4年度:愛知県 63.1%/全国 67.1%(差 −4.0)
2年続けて、全国を下回っています。
(※これは生徒本人の回答で、成績との因果関係を示すものではありません。令和5〜7年度の同じ項目は、私は確認できていません。
「愛知の子どもが粘り強くない」
と言っているわけではないことも、お断りしておきます)
一方、令和7年度の同調査では、
愛知県の中学校数学の平均正答率は全国を上回っていました。
愛知の子どもたちは、頑張っています。
だからこそ、
「失敗してもいい」と思える環境を家庭で作る
ことが、次の伸びしろになる、
と私は考えています。
家庭で実践できる3つの学習ルール
最後に、家庭でできることをまとめます。
1.「答えを見る前に、紙に何か1つ書く」をルールにする
式でも図でも、
「わからない」というメモでも構いません。
何も書かずに、解答ページを開かないだけです。
2.見た後は、「隠して書く」を一緒にやる
保護者の方は、答えを教えず、
「最初に何をした?」
と聞くだけで十分です。
教えすぎない関わり方は、
本シリーズ第2回にも詳しく書きました。
3. 「間違えた跡」を褒める
正解より、
「ここまで試したんだね」
という跡を認めます。
止まっていた時間が怖い時間でなくなると、
子どもは自分から探すようになります。
答えを急ぐ癖は、
叱って直るものではなく、
探し方の型を渡すことで変わっていく
ものです。
探し方を身につけるためのサポート
「家でルールを決めたけれど、続かない」
「どこまで粘らせて、どこで教えればいいのかがわからない」
「半田高校・横須賀高校を目指しているが、応用問題でいつも手が止まる」
そんなときは、数学の指導経験が豊富な第三者の目が役に立ちます。
雙葉進学教室は、愛知県半田市にある、
数学・理科に特化した進学塾です。
40年の指導経験を持つ塾長が、
半田高校・横須賀高校を目指す中学生に、
答えの出し方だけでなく、
探し方と、見た後の使い方
から指導しています。
「うちの子は粘り強くない」
と決めつけてしまう前に。
ぜひ一度、雙葉進学教室にご相談ください。