長い問題文に対する子どもの反応とその原因
テスト中の様子を、想像してみてください。
大問の文章を見た瞬間に、
「うわ、長い」
「これ、むずそう」
そう思った時点で、鉛筆が止まる。
あるいは、逆の場合もあります。
「あ、これ見たことある」
そう思って、すぐ解き始める。
でも、答えが違っていた。
家で保護者の方が見ていると、こう言いたくなります。
「ちゃんと読めば分かるでしょ」
「やる気がないだけじゃないの?」
でも、お子さん本人は、真面目に読んでいるつもりです。
こんにちは。
雙葉進学教室の「ビッグロック博士」です。
数学の指導に40年携わり、教育学修士(数学教育)として、
子どもたちの考え方を研究してきました。
大阪・沖縄・愛知の塾や、
東京の大手塾の海外校(ロンドン、ニューヨーク、上海)でも、
日本人児童の受験指導に関わりました。
お伝えしたいのは、こういうことです。
難しいのは問題ではなく、
読む前に頭にできてしまった
「先入観」
かもしれません。
今日は、その先入観の正体と、外し方をお話しします。
先入観を4つのタイプに分類して外す方法
- 問題文を読むとき、頭には読む前から感情や経験が働いている
- その先入観には、4つのタイプがある
- タイプが分かれば、外し方も決まる
- 外し方の核心は、「一歩引いて見る」ことと「言葉を数と関係に書き換える」こと
お子さんの先入観タイプを診断する方法
次の4タイプのうち、お子さんの口ぐせに近いものを探してみてください。
タイプ①:見た目タイプ
- 「文章が長いから、むずかしそう」
- 「数字が大きいから、できない」
見た目だけで、難しさを決めてしまいます。
実際は、長い文章でも、中身は簡単なことが多いです。
タイプ②:字面タイプ
- 「『多い』って書いてあるから、足し算でしょ」
- 「『もらった』だから、増える」
言葉の字面で、計算を決めてしまいます。
タイプ③:当てはめタイプ
- 「これ、前にやったやつだ」
- 「この形なら、あの解き方」
見たことのある形に見えて、
過去の解き方をそのまま使います。
タイプ④:自己イメージタイプ
- 「どうせ文章題は苦手」
- 「私、数学はムリ」
読む前から、結果を決めています。
どれも、
お子さんの性格やがんばりの問題ではありません。
誰にでも起こる、頭の働き方のクセです。
熟練者でも陥る慣れた手順の罠
「当てはめタイプ」
について、興味深い研究があります。
認知心理学者のビラリッチ(Bilalić)らは、
チェスの熟練プレイヤーを対象に実験を行いました。
- 盤面には、よく知られた5手の詰みの手順があった
- 同時に、あまり知られていない3手で勝つ、より短い手順もあった
多くのプレイヤーは、なじみのある5手の手順を選びました。
赤外線カメラで視線を調べると、
視線は5手の手順のマスから離れませんでした。
そして、本人たちは「別の手も探した」と話しました。
でも、実際に検討していたのは、
既知の5手の変形
だけでした。
つまり、
慣れた解き方が、より良い解き方を見えなくする
のです。
「見たことがある」は、強みでもあり、罠でもあります。
文章題で字面に引っ張られる理由
「字面タイプ」にも、研究があります。
オランダの小学5・6年生60名を対象にした研究(van der Schootら、2009)です。
問題の関係語(「多い」「少ない」など)と、
実際に必要な計算が食い違う問題を出しました。
たとえば、こんな問題です。
ゆうさんのカードは、お兄さんのカードより6枚少ないです。ゆうさんは24枚です。お兄さんは何枚ですか。
「少ない」という言葉に引っ張られると、
24−6=18としてしまいます。
でも、お兄さんのほうが多いので、
正しくは24+6=30枚です。
研究では、問題解決の成績が下位だった子(20名)は、
食い違いの問題での誤答率が、条件によって97.5%に達しました。
別の研究もあります。
ベルギーの10〜11歳を対象にした調査(Verschaffelら、1994)では、
現実的に考える必要のある問題に対して、
現実的と判断できる反応は、全体の17%でした。
つまり、子どもたちは、
問題の意味を考える前に、字面で計算を決めてしまう
傾向があるのです。
「苦手」意識が考える余地を奪う理由
「自己イメージタイプ」には、数学不安の研究があります。
心理学者のアシュクラフト(Ashcraft)とカーク(Kirk)は、
2001年に次のことを報告しました。
- 数学不安が高まるほど、ワーキングメモリの容量が減る傾向がある
- 数学不安が高い人は、問題解決の成績が下がる
ワーキングメモリとは、
頭の中の作業スペースのことです。
不安が、その作業スペースを使ってしまうと、
問題を考えるための余地
が残りません。
アシュクラフトは、
「数学不安は、学習された恐怖症なので、学び直せる」
と述べています。
つまり、「どうせ苦手」は、生まれつきではなく、
身につけたものです。
ですから、変えられます。
先入観を外すための5ステップ
では、先入観をどう外すのか。
ここからが、今日いちばんお伝えしたい部分です。
私は、次の5ステップをおすすめしています。
- 一歩引く:「難しい」を「難しいと感じている」に言い換える
- タイプに名前をつける:今の自分は、4タイプのどれか
- 言葉を、数と関係に書き換える
- 「分かっていること」と「求めるもの」を分ける
- 「まだ知らないこと」を1つだけ探す
ステップ1:一歩引く
心理学には「脱中心化(decentering)」という考え方があります。
思考を、事実としてではなく、
心の中の出来事として距離を置いて観察する
ことです。
たとえば、こう言い換えます。
- 「これは難しい」 → 「私は今、難しいと感じている」
- 「どうせ解けない」 → 「私は今、解けないと思っている」
たったこれだけで、
「感じていること」と「問題そのもの」が分かれます。
ステップ2:タイプに名前をつける
「あ、今の私は見た目タイプだ」
と、心の中で名前をつけます。
名前がつくと、先入観を
外から眺められるようになります。
ステップ3:言葉を、数と関係に書き換える
では、実際に使ってみましょう。
問題:ある水族館で、大人2人と子ども3人の入館料は合計5400円でした。また、大人3人と子ども1人の入館料は合計6000円でした。子ども1人の入館料は何円ですか。
文章が長く、「入館料」「合計」など言葉が多いので、
見た目タイプの子は、ここで固まります。
言葉を消して、数と関係だけにします。
- 大人2、子ども3 → 5400円
- 大人3、子ども1 → 6000円
- 求めるもの:子ども1人
ステップ4:分かっていることと、求めるものを分ける
- 分かっていること:上の2つの関係
- 求めるもの:子ども1人の金額
大人1人をa円、子ども1人をc円とおくと、次の2つの式になります。
- 2a+3c=5400
- 3a+c=6000
ステップ5:「まだ知らないこと」を1つだけ探す
全部を一度に考えず、
今分からないことを1つにします。
ここでは、
「aかcを消す方法は?」
だけです。
2つ目の式から、c=6000−3a。これを1つ目の式に入れます。
2a+3(6000−3a)=5400 2a+18000−9a=5400 −7a=−12600 a=1800
c=6000−3×1800=600
子ども1人の入館料は600円です。
たしかめ算:2×1800+3×600=3600+1800=5400 ✓、3×1800+600=6000 ✓
どうでしょうか。
読む前は「長くて難しそう」でしたが、
言葉を消すと、中2で習った連立方程式でした。
字面タイプの例に戻る
先ほどのカードの問題でも、同じ手順が使えます。
- 数と関係に書き換える:お兄さん = ゆうさん + 6(ゆうさんが6枚少ない=お兄さんが6枚多い)
- ゆうさん24枚 → お兄さん 30枚
「少ない」という字面ではなく、
誰が多いのかという関係で見ると、答えが変わります。
日本のデータから見る手が止まる傾向
日本の全国学力・学習状況調査にも、気になるデータがあります。
令和4年度の中学校数学で、
「角の和と、その理由を説明する」問題(9(2))の全国の結果は、
次のとおりです。
- 正答率:12.5%
- 無解答率:38.5%
記述式の問題では、
無解答率が高い傾向があるとされています。
愛知での考えを説明する機会の少なさとその影響
愛知県のデータにも触れておきます。
令和7年度の全国学力・学習状況調査で、
愛知県の中学校数学の平均正答率は51%で、
全国(48.3%)を上回りました。
愛知の中学生は、よく頑張っています。
一方で、同じ調査の質問紙には、こんな数字があります。
- 「数学の授業で、どのように考えたのかについて説明する活動をよく行っている」と答えた割合
- 愛知県:51.0%
- 全国:58.6%
自分の考えを言葉にすることは、
自分の先入観に気づく機会
にもなる、と私は考えています。
家庭でできる3つの声かけ方法
1. 「ちゃんと読みなさい」を、「今、どう感じてる?」に変える
「難しそう」と言ったら、否定せず、「難しそうと感じているんだね」と受け止めます。これが、一歩引く練習になります。
2. 「数と関係だけにしてみよう」と、一緒に書き換える
長い問題文を、ノートに箇条書きで書き直します。言葉を消すだけで、問題の姿が変わります。
3. 解けなかった問題は、「どのタイプだった?」と聞く
見た目、字面、当てはめ、自己イメージ。
名前がつくと、次に同じ罠が来たとき、気づけます。
「先入観」は、叱って消えるものではなく、
名前をつけて外していくもの
です。
一緒に身につける「読み方」の重要性
「家で試したが、お子さんがどのタイプなのか分からない」
「問題文を前にすると、毎回止まってしまう」
「半田高校・横須賀高校を目指しているが、文章が長い問題が不安」
そんなときは、数学の指導経験が豊富な第三者の目が役に立ちます。
雙葉進学教室は、愛知県半田市にある、数学・理科に特化した進学塾です。
40年の指導経験を持つ塾長が、
半田高校・横須賀高校を目指す中学生に、解き方だけでなく、
問題文の読み方と、先入観の外し方
から指導しています。
「長くて難しそう」を、
「分かることから始めよう」に。
ぜひ一度、雙葉進学教室にご相談ください。