塾で質問しても家で解けない理由とその対策
塾から帰ってきて、宿題を開く。
今日、塾で質問して教えてもらったはずの問題が、もう解けない。
「さっき教えてもらったよね?」
「うん……でも、どうやるんだっけ」
保護者の方は、こんな気持ちになりませんか。
- 質問できる塾を選んだのに、なぜ?
- 質問のしかたが悪いのか?
- そもそも、塾が合っていないのか?
質問そのものは、悪くありません。
問題は、
質問の種類と、
質問を受けた側が何を見ているか
にあります。
こんにちは。
雙葉進学教室の「ビッグロック博士」です。
数学の指導に40年携わり、教育学修士(数学教育)として、
子どもたちの考え方を研究してきました。
大阪・沖縄・愛知の塾や、東京の大手塾の海外校(ロンドン、ニューヨーク、上海)でも、日本人児童の受験指導に関わりました。
今日は、「質問対応」の先にある、
自立のための指導についてお話しします。
質問の質が子どもの成長を左右する理由
先に結論です。
- 質問には2種類ある
- 数学が伸びる子は、自力で解けるようになるための質問をしている
- 伸びにくくなるのは、答えを代わりに出してもらう質問ばかりのとき
- 講師が見るべきものは、答えではなく思考の癖
最初にお断りしておきます。
「質問対応だけの塾では伸びない」と、
研究で証明されているわけではありません。
質問対応型の塾とそうでない塾を直接比べた研究は、
私が調べた範囲では見つかりませんでした。
ですから、ここからお話しするのは、
周辺の研究から導ける考え方と、
40年の指導経験にもとづく私の見解です。
自立を促す質問と依存を生む質問の違い
教育心理学には、
「ヘルプシーキング(援助要請)」
という研究分野があります。
1981年、ネルソン=ルガル(Nelson-Le Gall)は、
助けを求める行動を2つに分けました。
| 適応的な質問 | 不適応的な質問 | |
|---|---|---|
| 目的 | 自分で解けるようになる | 努力を避ける |
| 求めるもの | ヒント、似た例、問題の意味の確認 | 答え、解答 |
| 結果 | 次は一人で解ける | また質問が必要になる |
数学の質問に置き換えると、こうなります。
- 適応的:「この問題の、最初に何を求めればいいか、ヒントをください」
- 不適応的:「これ、どうやるんですか?答えは何ですか?」
ここで大切なのは、
子どもが悪いわけではない
ことです。
「どうやるんですか?」
は、自然な質問です。
そして、それに
「こうやるんだよ」
と答えるのも、親切な対応です。
ただ、その繰り返しの中で、
思考のどこでつまずいたのかを、誰も見ていない。
これが、質問対応で起きやすい落とし穴だと私は考えています。
研究では、援助を
最も必要とする生徒ほど、援助を求めない
傾向があることも指摘されています。
質問する子が伸びにくいのではなく、
質問の中身が大切
なのです。
個別指導の効果とその限界
では、個別に教えてもらうことには、
どれくらい効果があるのでしょうか。
よく「個別指導は2倍伸びる」と言われます。
これは、1984年にブルーム(Bloom)が報告した
「2シグマ問題」が元になっています。
しかし、教育学者のフォン・ヒッペル(von Hippel)は、
この話を詳しく検証しています。
- 元の実験は、3週間の小規模な実験だった
- 個別指導には、追加のテストやフィードバックなど複数の工夫が含まれていた
- 厳密な研究を集めた結果では、典型的な効果は約0.33SD(標準偏差)
その後の大規模な分析もあります。
ニコウ(Nickow)らは、無作為化比較試験96件をまとめ、
チュータリングの平均効果を0.37SDと報告しました。
つまり、
個別指導の効果は実在するが、「2倍」ではない
ということです。
そして、効果の大きさは条件で変わります。
- 誰が指導するか:教師や専門職は、保護者やボランティアより効果が大きかった
- いつ行うか:授業時間内は約1.0SD、放課後は約0.4SDだった
- 頻度:週1回で大きな効果を示す証拠は乏しかった
大切なのは、
「個別だから伸びる」
「質問できるから伸びる」
ではなく、
中身と条件で決まる
という点です。
子どもの発言が深い理解を生む理由
もう1つ、見ておきたい研究があります。
チ(Chi)らは2001年、
人間のチューターによる個別指導を詳しく分析しました。
結果は次のとおりです。
- チューターの発話の約77%は、学習者の応答を引き出さないものだった。最も多かったのは「説明」
- 回帰分析では、チューターの説明は浅い知識の学習とだけ関連していた
- 深い理解と関連したのは、学習者が足場かけ(ヒントや問いかけ)に応えることと、自分で振り返って発言することだった
つまり、講師が丁寧に説明することより、
子どもが自分の考えを出すこと
が、深い理解につながっていた、
ということです。
これが、
「質問されたらすぐ答えを返す」
対応が、伸びる力を育てにくい理由の1つだと、
私は考えています。
実例:同じ質問に対する、2つの返し方
具体的な場面で比べてみましょう。
問題:えんぴつ1本とノート1冊で250円。えんぴつ2本とノート3冊で650円です。ノート1冊はいくらですか。
生徒が質問に来ます。「これ、どうやるんですか?」
返し方①:答えを返す
「えんぴつをx円、ノートをy円とするよ。
1つ目の式を2倍して、2つ目の式から引くんだ。
そうするとyが150になる。ノートは150円だよ」
生徒は「なるほど」と言い、ノートに写します。分かった気になります。
でも、次に似た問題が出ると、
どの式を何倍するのかが分からず、
また止まります。
返し方②:考えを引き出す
「まず、分かっていることと、求めるものを教えて」
→「えんぴつ1本とノート1冊で250円。2本と3冊で650円。ノートの値段を求める」
「文字はどうおく?」
→「えんぴつをx、ノートをyにして…」
「式は何本立つ?」
→「x+y=250と、2x+3y=650」
「2本の式を見て、そろえられそうなところはない?」
→「…xの数をそろえたら、引けるかも」
「じゃあ、どうそろえる?」
→「1本目を2倍して、2x+2y=500」
「そこから先は?」
→「2x+3y=650から引くと、y=150」
答えは同じノート150円(えんぴつは100円。たしかめ算:200+450=650 ✓)。
でも、中身が違います。
②では、生徒が自分の言葉で、
考えを順番に外に出しました。
そして、講師はその間、
生徒の思考の癖を観察
しています。
- 「分かっていること」を整理せずに、いきなり式を探していないか
- 「そろえる」という発想が、自分から出てくるか
- 途中式を、頭の中だけで進めていないか
第3〜7回のおさらい:講師が見ている「思考の癖」
この「思考の癖」は、この連載で扱ってきたものと、つながっています。
| 回 | 思考の癖 | 講師が見ること |
|---|---|---|
| 第3回 | 途中式を書かない(書けない) | 頭の作業台がパンクしていないか |
| 第4回 | ミスを「うっかり」で終わらせる | どの工程で崩れたか(バグの場所) |
| 第5回 | 問題を塊のまま見る | 条件を分けて部品に名前をつけているか |
| 第6回 | 答えを急ぐ | 見る前に、探した跡が紙に残っているか |
| 第7回 | 目印が問題の表面にある | 2題を比べて共通の骨組みを取り出せるか |
どれも、
答えの正誤を見るだけでは見えません。
考えの途中を、外に出してもらわないと、見えないのです。
質問対応が「答えを返すこと」で終わると、
この癖は、誰にも見られないまま残ります。
そして、テストの初見問題で、そのまま現れます。
「本物の指導」とは、フィードバックのレベルを一段上げること
ハッティ(Hattie)とティンパーリー(Timperley)は、
フィードバックを4つのレベルに分けました(2007年)。
- タスク:内容の正誤。「正解です」「惜しい」
- プロセス:やり方や考え方。「どういう順番で考えた?」
- 自己調整:自分で確かめ、調整する。「合っているか、どうやって確かめる?」
- 自己:本人に向けた言葉。「頑張ったね」「えらいね」
ここで重要なのは、
賞賛(自己)が最も効果が低い
とされていることです。
そして、情報量が多く、タスクとプロセスに触れるフィードバックのほうが、
効果が大きいとされています。
質問対応が止まりやすいのは、
1番目の「タスク」のレベル
です。
正解を教え、間違いを直す。もちろん必要ですが、
そこで終わると、考え方が育ちません。
本物の指導は、
2番目と3番目まで踏み込む
ことだと、私は考えています。
ちなみに、フィードバックの効果量は、
研究によって幅があります。
再分析では中程度(0.48〜0.55)とされており、
万能ではありません。
それでも、
情報の質が効果を分ける
という方向は、一貫しています。
なぜ今、愛知で。「考えを説明する」機会が、全国より少ない
愛知県のデータにも触れておきます。
令和7年度の全国学力・学習状況調査で、
愛知県の中学校数学の平均正答率は51*で、
全国(48.3%)を上回りました。
愛知の中学生は、よく頑張っています。
一方、同じ調査の質問紙には、気になる数字があります。
- 「数学の授業で、どのように考えたのかを説明する活動をよく行っている」と答えた割合
- 愛知県:51.0%
- 全国:58.6%
「考えを言葉にする」
機会は、学校の授業だけでは足りないかもしれません。
だからこそ、
塾や家庭で、考えを外に出す練習
が大切になると、私は考えています。
家庭でできる、質問の質を変える3つの声かけ
最後に、今日から家庭でできることをまとめます。
1. 質問されたら、まず聞き返す
「分かっていることは何?」
「どこまでは分かった?」
と聞くだけで十分です。
答えを教えるのは、その後で構いません。
2. 「どうやるの?」を「ここまでやった。次が分からない」に変える
子どもが質問するときに、
自分がやったところまで
を見せてもらいます。こ
れが、適応的な質問の第一歩です。
3. 教わった問題は、もう一度、自分の言葉で説明してもらう
翌日でも構いません。
「昨日の問題、最初に何をした?」
と聞いてみてください。
説明できれば、身についています。
塾を選ぶときに、確認してほしい3つのこと
「質問できる」
だけで塾を選ぶ前に、次の3点を確かめてみてください。
- 質問したとき、講師は答えを返すか、考えを引き出すか
- 間違いの「場所」を、一緒に見てくれるか(答えの正誤だけで終わっていないか)
- 子どもが自分の考えを、言葉や式で外に出す時間があるか
「思考の癖」を、一緒に見つけませんか
「質問はしているのに、家では解けない」
「うちの子は、どこでつまずいているのか知りたい」
「半田高校・横須賀高校を目指しているが、自力で解く力が不安」
そんなときは、数学の指導経験が豊富な第三者の目が役に立ちます。
雙葉進学教室は、愛知県半田市にある、
数学・理科に特化した進学塾です。
40年の指導経験を持つ塾長が、
半田高校・横須賀高校を目指す中学生に、答えの出し方だけでなく、
考え方の途中を見て、思考の癖を補正する
指導を大切にしています。
「教えてもらう学習」から、
「自分で解ける学習」へ。
ぜひ一度、雙葉進学教室にご相談ください。