1問にハマり時間切れになる悪循環の実例
テストが返ってきて、答案を見ると、こうなっています。
- 大問の途中の小問に、消しゴムの跡がびっしり
- その後ろの問題は、手つかずのまま
- 本人は「あと少しで解けそうだったのに」と悔しそう
保護者の方も、複雑な気持ちになりますよね。
- 「解けない問題は飛ばして、次に行けばいいのに」と言いたくなる
- でも、「最後まで粘りなさい」と教えてきたのは自分かもしれない
- 結局、何と声をかければいいのか分からない
こんにちは。
雙葉進学教室の「ビッグロック博士」です。
数学の指導に40年携わり、教育学修士(数学教育)として、
子どもたちの考え方を研究してきました。
大阪・沖縄・愛知の塾や、東京の大手塾の海外校(ロンドン、ニューヨーク、上海)でも、
日本人児童の受験指導に関わりました。
指導の現場で感じるのは、
時間が足りなくなる子の多くは、
「やる気がない子」ではなく、
むしろ「諦めない真面目な子」
だということです。
今日は、その悪循環の仕組みと、
本番で使える「見切り」の3つのルールをお話しします。
見切りは戦略的撤退:点数を守るための結論
- 難問にハマる子は、意志が弱いのではなく、誰にでも起きる仕組みに引っ張られている
- その仕組みは、「ハマる → 時間が減る → 焦る → 視野が狭くなる → さらにハマる」という悪循環
- 断ち切る鍵は、本番の最中に気合いで判断することではなく、普段の練習で、見切りのルールを事前に決めておくこと
- 見切りは「逃げ」ではなく、取れる点を取りにいくための戦略的撤退
悪循環の解剖:難問にハマる心理とその影響
悪循環を、4つの段階に分けてみます。
第1段階:難問にハマる瞬間
「あと少しで解けそう」と感じて、手が止まらなくなります。
同じ式を書き直し、同じ図を描き直します。
第2段階:時間が減る
ふと時計を見ると、思ったより進んでいます。
後ろにまだ問題が残っているのに、
です。
第3段階:焦る
「早く解かないと」という気持ちが強まります。
ここで、頭の中の作業台(ワーキングメモリ)が、焦りで圧迫されます。
第4段階:視野が狭くなる
焦るほど、
今見ている1つの解き方しか目に入らなくなります。
別の方法や、後ろの解ける問題のことが、
頭から消えてしまいます。
そして第1段階に戻ります。
一度回り始めると、本人の意志だけでは止めにくい
のが、この悪循環の怖いところです。
では、この流れの各部分を、
研究はどう説明しているのでしょうか。
3つ紹介します。
研究①:難問に時間をかけすぎるリスク
心理学者のメトカーフ(Metcalfe)とコーネル(Kornell)が、
2003年に報告した実験です。
参加者は、単語の組を学習する際に、
どの項目にどれだけ時間を使うか
を選べました。
結果の一部です。
難しい項目に使った時間と、その再生率は、次のとおりでした。
| 条件 | 難しい項目に使った平均時間 | 難しい項目の再生率 |
|---|---|---|
| 5秒条件 | 0.71秒 | 0.01 |
| 15秒条件 | 3.56秒 | 0.02 |
| 時間無制限 | 8.61秒 | 0.04 |
使った時間は10倍以上に増えたのに、
再生率は0.01から0.04へ。
ほとんど変わりません。
一方、追加の時間で有意に成績が上がったのは、
中程度の難しさの項目だけ
でした。
つまり、
「今の自分にとって難しすぎる項目に粘る」より、
「もう少しで届く項目に時間を使う」
ほうが、時間あたりの成果が大きいということです。
この研究を読むときの注意点
- これは学習時間の配分の実験で、試験中の意思決定を調べたものではありません
- 実験2の参加者は12名で、小規模です
- 数学の問題を解く場面に、そのまま当てはまるとは言えません
ですから、
「試験でも同じ結果になる」
とは言いません。
ただ、
「難しすぎるものに粘っても、
時間の割に報われにくい場面がある」
という考え方のヒント
として、私は大切にしています。
研究②:「ここまで書いたのに、もったいない」は、青年期から始まる
2つ目は、
サンクコスト(すでにかけた時間や労力が惜しくて、やめられなくなる心理)
の研究です。
ハムザギッチ(Hamzagic)らは、2歳から97歳までの1,060人を対象に、
サンクコストの判断が年齢でどう変わるかを調べました。
結果は、こうです。
- 成人と青年は、一貫してサンクコスト判断を示した
- 子どもは、示さなかった
つまり、中学生の年代は、大人と同じように
「ここまでやったのに」
に引っ張られる可能性があります。
数学の本番でいえば、こんな心の声です。
- 「もう3行も書いたのに、消すのはもったいない」
- 「ここまで考えたのに、飛ばしたら全部ムダになる」
ここで保護者の方にお伝えしたいのは、
「最後までやりなさい」という言葉が、
サンクコストを強める方向に働くことがある、
ということです。
もちろん、粘り強さは大切です。
その話は、後ほど
「普段は粘り、本番は見切る」
の項目で整理します。
研究③:焦るほど、視野は狭くなる
3つ目は、注意の狭窄の理論です。
心理学者のイースターブルック(Easterbrook)は、1959年に、
覚醒(緊張や興奮)が高まると、
利用できる手がかりの範囲が狭まる
という考え方をまとめました。
ポイントは、狭くなること自体が、
いつも悪いわけではない、
という点です。
- 中心的な手がかりだけで解ける課題 → 狭まることで、むしろ遂行が整うことがある
- 周辺的な手がかりも必要な課題 → 遂行が乱れる
数学の難問は、後者になりやすいはずです。
別の解き方、
問題文の見落とし、
図の別の見方
といった「周辺の手がかり」が必要だからです。
3つの研究から見えること
ここまでをまとめます。
- 研究①:難しすぎる項目に粘っても、時間の割に報われにくい場面がある
- 研究②:「ここまでかけたのに」は、青年期から効いてくる
- 研究③:焦ると、利用できる手がかりが狭まる
3つは別々の研究ですが、
悪循環の各段階とよく重なります。
だとすると、本番の最中に
「落ち着いて、冷静に判断しよう」
と言っても、難しいはずです。
判断力そのものが、すでに狭まっているからです。
だから、
判断は、本番の前に済ませておく。
ここからが、今日いちばんお伝えしたい部分です。
見切りの3つのルール:本番で迷わないために、事前に決めておく
私が、練習の段階から取り入れることをすすめているのは、
次の3つです。
- ルール① 見切りの合図を、事前に決める
- ルール② 合図は「時間」より「進展」で見る
- ルール③ 戻るための印をつけてから、次に行く
ルール①:見切りの合図を、事前に決める
本番の最中は、判断が歪みやすい時間です。
そこで、
家での練習のときに、
「こうなったら次に行く」
という合図を、先に決めておきます。
決めておくと、本番では「迷う」のではなく、
「ルールに従う」だけになります。
ルール②:合図は「時間」より「進展」で見る
よく、
「何分で見切ればいいですか?」
と聞かれます。
実は、
「何分」という科学的な基準は、
今回私が調べた範囲では見つかりませんでした。
時間配分の目安を示す塾や予備校の記事はありますが、
いずれも経験にもとづく目安で、データの裏づけは示されていません。
そこで私は、
進展の有無で決めることをすすめています。
たとえば、こんな合図です。
- 新しい式や、新しい図が、書けなくなった
- 同じ式を2回書き直した
- 問題文を読み直しても、使っていない条件が見つからない
- 「あと少し」と感じているが、何が「少し」なのか言えない
最後の合図は、特に大切です。
「あと少しで解けそう」
という感覚は、あてになりにくいことがあります。
あと何をすれば解けるのか、言葉にできるかどうか
を確かめてください。
ルール③:戻るための印をつけてから、次に行く
見切るのが怖い理由の1つは、
「もう戻れない」
と感じることです。
そこで、印をつけてから、次に行きます。
- 問題番号に、大きく「△」をつける
- 今どこまで分かったかを、1行だけメモする(例:「xの範囲まで出た」)
- 余った時間で、戻る
メモを1行残すと、
戻ったときに、最初から考え直さずに済みます。
「戻れる」と思えると、
見切りの心理的なハードルが下がります。
練習の手順:家で「見切りの練習」をする
ルールは、使わないと身につきません。家での練習は、こう進めます。
手順1:過去問や模試を、時間を区切って解く
本番と同じ条件を、
できるだけ再現します。
手順2:見切りメモをつける
詰まった問題には、次の3点だけ書きます。
- 何分たったか
- 合図は何だったか(式が止まった/同じ式を書き直した、など)
- 見切ったか、粘ったか
手順3:解き終わってから、振り返る
- 見切った問題は、戻って解けたか
- 粘った問題は、結局解けたか
- 粘ったせいで、後ろの問題を落としていないか
この振り返りで、
お子さん自身の「見切りの基準」
ができていきます。
普段は粘り、本番は見切る:矛盾ではありません
ここで、1つ疑問が出るかもしれません。
本連載の第6回では、
「解法を探す時間こそが、数学の脳を作る」
とお伝えしました。
粘り強さを肯定しておきながら、
今回は見切りをすすめる。
矛盾していませんか?
矛盾しません。
場面が違うのです。
| 練習の場 | 本番の場 | |
|---|---|---|
| 目的 | 考える力を育てる | 取れる点を取る |
| 時間 | 余裕がある | 限られている |
| 難問への対応 | 粘って、探索する | 合図が出たら、見切る |
練習では、時間をかけて悩んだ分だけ力になります。
一方、本番は、限られた時間で、点数にする場です。
そして、
練習で粘った経験があるからこそ、
本番で「ここは見切ってもいい」と判断できる
と、私は考えています。
どこまで粘ればどんな景色が見えるのか、
知っているからです。
愛知県の入試で、考えておきたいこと
愛知県の公立高校入試(数学)について、
考えておきたいことをお伝えします。
現状の入試形式は、
満点22点、大問3つ、小問19問、マークシート形式
です。
小問が19問で、満点が22点です。
大問2に2点の問題が3つあります。
ここから言えることは、2つです。
- 1つの小問にハマって、2点の問題を落とすと、取りこぼしが大きくなりやすい
- マーク形式の場合、記述式のような部分点はありません。よって、解答できる問題を確実に押さえることが重要です。
今日からできる、家庭での3つの声かけ
1. 「最後まで粘りなさい」を、「今は粘る場面? 見切る場面?」に変える
練習のときは粘る、
本番を想定したときは見切る。
場面を切り分ける言葉をかけます。
2. 「あと少しで解けそうだったんだね。あと何が分かれば解けた?」と聞く
否定せず、「あと少し」を言葉にしてもらいます。
言葉にできないなら、それが見切りの合図になります。
3. 見切った問題を、後で一緒に解き直す
「見切って正解だった」
「戻れば解けた」
という経験が、次の判断を支えます。
見切りは、叱って身につくものではありません。
練習の中で、「見切ってよかった」
と実感できるかどうか
が、すべてです。
「見切る力」を、一緒に身につけませんか
「うちの子は、いつも1問にハマって時間切れになる」
「見切りの基準を、親が教えられない」
「半田高校・横須賀高校を目指しているが、本番の時間の使い方が不安」
そんなときは、数学の指導経験が豊富な第三者の目が役に立ちます。
雙葉進学教室は、愛知県半田市にある、数学・理科に特化した進学塾です。
40年の指導経験を持つ塾長が、半田高校・横須賀高校を目指す中学生に、
解き方だけでなく、
考え方の癖と、
本番での時間の使い方・判断の仕方
から指導しています。
「もう少しで解けそう」を、
「ここは戻ろう」と言える力に。
ぜひ一度、雙葉進学教室にご相談ください。